
2024年11月8日に公開された、柊マグネタイトさんの楽曲『テトリス』。
重音テトSVが歌うこの曲は、軽快なロシア民謡「コロベイニキ(通称:コロブチカ)」のメロディに乗せながら、私たち現代人の心の闇を鋭く映し出すような一曲です。
見た目はポップなのに、よく聴くとどこか苦しい——。
そんなギャップがSNSでも話題となり、公開直後から「刺さる」「共感しかない」と評判になりました。
今回はこの『テトリス』に込められた本当の意味を、歌詞やMVの演出をもとに深掘りしていきます。
人生はまるで「テトリス」? 終わらない積みゲーと詰みゲーのループ
テトリス / 重音テトSV
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— 柊マグネタイト (@hiiragi_magne) November 8, 2024
この曲のテーマの中心にあるのは、「人生=テトリス」という比喩。
私たちは日々、次々と落ちてくる“ブロック”のようなタスクを処理し続けています。
仕事、勉強、人間関係…どれも一度片づけたと思ったら、また新しい課題が降ってくる。
ラインを消した瞬間の達成感は一瞬だけ。
気づけばまた次のブロックが落ちてきて、エンドレスな繰り返しが始まります。
この終わりのない感覚こそが、『テトリス』の中で描かれる“現代社会の縮図”なのかもしれません。
「置きミス」は後悔の象徴|消せない過去と心のブロック
歌詞の中で印象的なのが、「自分の恥ずかしい過去を知る人々の記憶を消したい」という一節。これはまるでテトリスでミスしたブロックが残ってしまうような感覚に近いです。
やり直したい過去、後悔している選択。
それらは心の奥で形を変えずに残り、どんどん積み上がっていく。
そして気づけば、新しい挑戦をする余裕すらなくなってしまう。
この“置きミス”のメタファーが、過去に縛られる人間のリアルを見事に表現しています。
「積みゲー」から「詰みゲー」へ|キャパオーバー社会の現実
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「今日は気分じゃないな」
-
「そのうちやるか」
私たちは日々、後回しにしたタスクを“ホールド”しがちです。
でも気づいた時にはもうブロックでいっぱい。
新しいことを入れる余裕がない、いわゆる「詰みゲー」状態になってしまいます。
この“キャパシティの限界”こそが、楽曲全体に流れる緊張感の正体。
まるでゲームオーバーが迫ってくるような焦燥感が、『テトリス』のサウンドにも表れています。
「ぼんやりとした不安」と芥川龍之介|現代の閉塞感との共鳴
「テトリス」3000万再生ありがとうございます!!
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— 柊マグネタイト (@hiiragi_magne) January 28, 2025
「ぼんやりとした不安」というフレーズを聞くと、芥川龍之介の最期の言葉を思い出す人も多いでしょう。
彼は1927年、「ただぼんやりした不安」が理由だと記しました。
柊マグネタイトさんは、この“名づけようのない不安”を現代の文脈に重ねています。
SNSで情報があふれ、常に比較と焦りにさらされる今の時代。
その中で私たちが抱えるのは、芥川が感じたものと同じ「理由のない不安」なのかもしれません。
さらに歌詞に出てくる「人生キャンセルキャンセル界隈」という言葉。
ネットスラング的な表現ですが、これは「何も変えられないまま、変わりたいともがく現代人」を象徴しています。
行動も感情も“キャンセル”を繰り返すうちに、何もかもが空回りしていく。
そんな虚しさがリアルに描かれています。
躁と鬱のサイクル、そして「テトリス効果」
【クリエイターインタビュー ティザー動画公開!】
柊マグネタイトさん( @hiiragi_magne )へのクリエイターインタビュー動画を近日公開!✨今回はなんと「テトリス」の楽曲解説です!
現在鋭意編集中ですので、是非チャンネル登録をしてお待ちください!👇https://t.co/PDoaRXoirG… pic.twitter.com/8U2PbWFBwN
— ヤマハ・スタインバーグ (@SteinbergJP) August 30, 2025
「鬱とか躁とか」という直接的な言葉も登場します。
この曲を聴いていると、躁状態と鬱状態の間をぐるぐる回り続けるような感覚に陥ります。
- 躁状態 AメロやBメロで畳みかけるような早口フレーズ、「オイルマッサージ100分コース」「温泉旅行3泊4日」などの突飛な表現。
- 鬱状態 サビで一気にテンポが落ち、「私のせい 私が悪い」と自己否定に陥る展開。
この激しい感情の波こそ、テトリスでブロックが回転し続けるような“心のスピン”を象徴しています。
さらに心理学的には「テトリス効果」と呼ばれる現象があります。
これは、テトリスをプレイすることでフラッシュバックの発生を抑えるという研究結果。
そう考えると、テトがブロックを回し続けるのは楽しいからではなく、つらい記憶を忘れるためなのかもしれません。
コロブチカからテトリスへ|音楽が持つ「変化」の物語
『テトリス』のメロディの元になっているのは、19世紀ロシア民謡「コロベイニキ(コロブチカ)」。
もともとは行商人と少女の恋の駆け引きを歌ったものでした。
それがソ連製ゲーム『テトリス』のBGMとして採用され、“作業の象徴”という新しい意味を得ます。
そして柊マグネタイトさんは、そこにさらに“現代社会の苦しさ”を重ねた。
こうして「コロベイニキ」は、時代とともに形を変え続ける「進化する音楽」として蘇ったのです。
また、歌詞の「ショッピンモールの現代コンピュー」は、Vaporwaveの代表曲『リサフランク420 / 現代のコンピュー』を思わせるフレーズ。
80〜90年代の大量消費文化や懐かしさを取り込みつつ、情報過多のネット社会を象徴する引用となっています。
Tスピン=逆転の一手? MVに隠された希望のサイン
MVでは、テトが何度も“スピン”するシーンが印象的です。
これはゲーム用語でいう「Tスピン」を連想させる演出。
Tスピンは、絶望的な状況からでも逆転できるテクニックのこと。
つまり、テトの回転は「どんなに追い詰められても、まだ希望はある」というメッセージかもしれません。
この一瞬の光が、曲全体にほんのり差し込む救いとなっています。
まとめ
「テトリス」3000万再生ありがとうございます!!
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— 柊マグネタイト (@hiiragi_magne) January 28, 2025
柊マグネタイトさんの『テトリス』は、ただのゲーム音楽のオマージュではありません。
“遊び”というモチーフを通して、現代社会に生きる人のストレスや後悔、不安、そして感情の揺れをリアルに描いた一曲です。
軽やかなメロディに対して、どこか影を感じる歌詞。
そのギャップが生む独特の世界観は、聴く人の心を強く引き込みます。
テトリスのように日々を積み上げながら、時に“詰んでしまう”瞬間もある。
それでも前を向いて生きていく――。
そんな現代人の姿を、柊マグネタイトさんはこの楽曲で鮮やかに表現しています。



