
今回は、日本とは少し違う進化を遂げてきた中国のボカロ文化を解説します。
「初音ミク」が日本で登場してから約15年。ボーカロイドは世界中で広がり、中国でも独自のムーブメントを生み出してきました。
そんな中、中国では*中国語で歌うボカロ曲”が次々と生まれ、現地の若者たちの心を掴んでいきます。
そこには、国境を越えた創作の情熱、そして音楽を愛する人々の物語がありました。
この記事では、
- 初音ミクが中国語で歌った伝説の名曲「月西江」
- 人気ゲーム『崩壊学園』につながる「崩壊世界の歌姫」
- 中国ボカロ黄金期を切り開いた「普通ディスコ」
- 暗闇の時代に希望を灯した「絶対絶命」
この4曲の背景・物語・文化的な意味をわかりやすく紹介していきます。
読むことで、
- 「中国ボカロがどうやって発展してきたのか」
- 「日本のボカロ文化とどんな違いがあるのか」
- 「これから中国ボカロがどこへ向かうのか」
これらが、ひと目で分かる内容になっています。
音楽好きの方はもちろん、創作やDTMに関わる方にも刺激になる内容です。
それでは、さっそく見ていきましょう。
①初音ミクが中国語で歌う名曲「月西江」
最初に紹介するのは、初音ミクが中国語で歌う名曲「月西江」です。
この曲は、中国広西チワン族自治区出身のボカロP「solpie(ソルパイ)さん」が制作した作品。
当時、初音ミクにはまだ日本語ライブラリしか存在していなかったにも関わらず、中国語で歌わせるという前代未聞の試みに挑戦した伝説的な楽曲です。
solpieさんは当時まだ学生で、進学のために故郷を離れるタイミングでこの曲を制作したそう。
「初恋の人を想いながら作った」と語られています。
当初は2010年5月8日にニコニコ動画へ投稿されましたが、心ない荒らしによって削除されてしまいました。
この事件はニュースにも取り上げられ、大きな波紋を呼びました。
しかし、その後も「もう一度投稿してほしい」という声が世界中から寄せられ、根強い人気を誇ります。
さらに、2015年に開催された「初音ミク EXPO in 上海」のアンコールでは、なんとこの曲がサプライズで披露されました。
観客たちは驚きながらも、歌が始まった瞬間に涙したと言われています。
その後も「月西江」は2019年、リズムゲーム「Cytus II」への収録や、2022年の初音ミクV4C、5周年記念リメイク版の発表など、今も多くの人々に愛され続けています。
②ゲーム「崩壊学園」シリーズの原点「崩壊世界の歌姫」
2曲目は、2011年にビリビリ動画で代理投稿された「崩壊世界の歌姫」。
この曲は、miHOYOの人気スマホゲーム「崩壊シリーズ」のテーマソングとして知られています。
作曲を手がけたのは、ミックスチームのディレクター・アリーさん。
彼はmiHoYo(現HoYoverse)に入る前、「初音仙(Hatsune-sen)」という同人音楽サークルに所属していました。
実はこの曲、「崩壊学園2(日本版タイトル)」のために新しく書かれたものではなく、同人時代の楽曲が後にゲーム主題歌として採用されたという背景があります。
いまでは“崩壊シリーズの象徴”として知られていますが、その原点はもっと小さな創作の現場にあったのです。
③中国ボカロ黄金期を築いた「普通DISCO」
3曲目は、中国ボカロ史の中で最も再生された曲のひとつ「普通DISCO」。
2015年3月にビリビリ動画へ投稿された、中国語ボカロ・洛天依と言和によるデュエット曲です。
この曲は、中国語オリジナルボカロ曲として初めて“伝説入り”を達成した曲でもあります。
その人気は凄まじく、年末のテレビ特番で中国の人気歌手がカバーを披露するほどの社会現象になりました。
「普通DISCO」のヒット以降、ビリビリでは中国語ボカロ曲が次々と伝説入り。
この時代は“ボカロ黄金期”と呼ばれています。
作曲者・ilemさんはこの曲をきっかけに一躍有名ボカロPとなり、現在までに「神話入り3曲」「伝説入り32曲」という驚異的な記録を持つトップクリエイターへと成長しました。
歌詞は一見シンプルで、「普通の街で、普通の音楽を聴きながら、普通に踊る僕たち」を描いています。
しかし、これほどのヒットを経て“普通”とは何なのか
そんな哲学的な問いを残す名曲でもあります。
④暗闇に灯る希望「絶対絶命」
最後に紹介するのは、2018年4月にボカロP・ 阿良良木健さんが投稿した「絶対絶命」。
この曲には2つのテーマがあります。
1つは「うつ病に苦しむ人の内面を描くこと」。
もう1つは「当時の中国ボカロ界への批判と、再起へのメッセージ」。
2018年ごろ、中国ではボカロ動画の再生数が低迷し、有名Pが次々と活動を休止。
界隈全体に暗いムードが漂っていました。
そんな中、阿良良木健さんは「情熱という炎を絶やさない限り、ボーカロイドは死なない」という想いをこの曲に込めました。
暗い歌詞の中にも、ほんの少しの希望が灯る。
まるで真っ暗な夜に小さく光る星のような、静かな感動を与える作品です。
中国ボカロ文化が今、再び盛り上がり始めている

中国のボカロシーンは、2018〜2022年の低迷期を経て、最近ようやく盛り返してきています。
「ACE Studio」などの中国独自のAI歌唱ソフトの普及や、公式イベントの開催によって、再び活気を取り戻しつつあります。
特に注目されているのが、ボカロキャラクター「洛天依(ルオ・テンイ)」を展開する企業による新AIライブラリ「子墨(ジモ)」のベータ版。
リリースされれば、同社の全6キャラがACE Studio上で使用可能になる見込みです。
たった2年でここまで進化するスピードには驚かされます。
こうした動きは、いずれ日本の合成音声ソフト市場にも影響を与えるかもしれません。
これからの中国ボカロシーンの展開にも、ぜひ注目したいですね。
まとめ
中国のボーカロイド文化は、日本とはまた違う方向で進化を続けています。
その背景には、音楽を愛するクリエイターたちの情熱、そして新しい表現を追い求める自由な発想があります。
今回紹介した4曲は、その一部にすぎません。
実際には、まだまだ多くの中国ボカロ曲が世界中で聴かれ、独自のファンカルチャーを形成しています。
もし、これまで「ボカロ=日本の文化」と思っていたなら、ぜひ一度、中国ボカロの世界にも触れてみてください。
繊細で壮大な世界観、民族音楽と電子音の融合、そしてどこか懐かしさを感じるメロディ。
きっとあなたの音楽の幅を大きく広げてくれるはずです。

